Room2 路地裏写真館

あれはもう、十数年も前のことじゃった。都会には珍しい嵐の夜、この女は突然このアパートに転がり込んで来たんじゃ。「Aiuto（助けて）！悪イ男に追ワレテイマ～ス。誰か～！！」ってな。あんまり切羽詰まっていたようじゃったから、取りあえずかくまってやることにした。程なく夫と名乗る男が怒鳴り込んで来て、女のことを聞いてきよったが、とことんしらばっくれてやったわい。

このレトロッチと名乗る無国籍風の女、何でも若い頃はファッションモデルをやっていて、中々の売れっ子だったらしい。モデル絶頂期にも関わらず、シャンソンパブで意気投合したフランス貴族の出だというイケメン歌手と電撃結婚。しかし、若気の至りとはよく言ったもんじゃ。フランス貴族出身だなんて、よくもまぁそんな見え透いた大嘘に騙されたもんじゃわい。結婚から一週間（早っ）、夫の酒癖、ギャンブル癖、女癖、それに加えて男癖（ヌナ？）の悪さにホトホト嫌気がさして、逃げて来たらしい。

今は撮られる方から撮る方に転身して、安っぽいフィルムカメラを相棒にスナップを撮り歩いておる。風の吹くまま、雨の降るまま、気の向くままにな。それにしても、こ奴の写真と来たら、（性格はキツイくせして）デジタル一眼やスマホで撮ったのとは程遠いユル～イもんばっかりじゃて。完全に時代と逆行しておるわい。

もう一つの顔として、私立探偵の真似事なんかをやっておるようじゃが、そっちの方は吾輩ノータッチじゃ。ちなみに男はもう懲り懲りらしい。しかしのう、不思議なことにこの女、ちっとも年をとらん。なんでかのう。

ナンテコッタ！

ん？　ちなみに風の便りに聞いた話じゃが、例の夫はその後性転換手術を受けてフランスに帰国。従兄の経営するゲイバーに就職したとのこと。ああデメタシデメタシ。

あ、そうそう、写真はそれぞれの項目ごとに、少しずつ増やしていくそうじゃから、時々覗いてやってくだされ。